物理教育の現場から

受験指導、ICT、クラス運営、アクティブラーニング、探究学習など、多岐にわたって現場目線で

寝ちゃう生徒は起こすべきか

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授業で寝てしまう生徒は必ずいます。それに対して起こす先生、怒る先生、ほっとく先生、対応は様々ですが、どれが正解なのでしょうか。 

わたしは絶対に起こすべき、と考えます。その理由を3つに分けて説明します。

 

1−1 起こすではなく、そもそも生徒が寝ない授業をすればいい?

特に若い先生に多い意見です。

「眠くなるような授業をしてしまう自分(教員)が悪い」

この考え方は先生の授業をよりよいものにするために必要な考え方だと思いますが、「生徒は悪くない」と考えてしまうのは確実に誤りだと思います。そう考える先生は、生徒が何を思って寝ているかを次のように予想しているでしょう。

「教員が何を言っているのかわからないから寝る」「内容に関心が湧かないから寝る」

そのような予想を立てると、教員はきっと次にこう考えます。

「わかるように伝えよう」「もっと生徒が関心を抱くようなことを伝えよう」

ここに間違えてしまうポイントがあります。

 

1−2「わかるように伝えよう」の気持ちは諸刃の剣

わかるように伝える、だけを考えてしまったとき「内容を簡単にする」「ちょっと違うけど、イメージしやすい例え話で言い換える」などの手段に出ると、その授業の価値は一気に下がります。しかし生徒の授業への理解度は上がります。

ひどい事例だと、生徒が知っていることを中心に授業して生徒の授業満足度を高くするような場合があります。難解なところや、抽象的なところはやらずに後回し。というカリキュラムを組んだりします。それは果たして良い授業にするための努力なのでしょうか。

 

1−3「生徒が関心を抱く」と「生徒が楽しむ」は少し違う

生徒に関心を持ってもらうために、教員はいろいろな本を読んだりして、常に雑談のネタを探しています。そして生徒に雑談をしていくのですが、「生徒が雑談を楽しんだ」という結果が得られたとしても、その要因は同一のものとは限りません。

「元々知識や関心があったことだけど、学習したことでより深められて楽しかった。」

このパターンが一番多いと思います。これも良い雑談だと思います。でもこれはもともと生徒が関心を持っていることが前提です。なので、授業で寝てしまうような生徒には響かない可能性もあります。

そこでこんなパターンを目指したいです。

「自分が知らない世界のことを垣間見ることができた」

この体験は理科教育において最も重要ではないでしょうか。

例えば、

ドップラー効果って救急車が自分の横を通り過ぎる時に感じることができるんだよ。ほら、ピーポーピーポーを聞いてみて」

こんな話をしたときに

「確かにそう聞こえるな!ドップラー効果が起きていたんだ!」

こんな風に楽しんでくれたとします。でもそこにもうワンポイント追加して、

「光も波動の性質を持つからドップラー効果を起こすし、宇宙からの光を分析して、ドップラー効果のデータを集めることで、光の発信元について知ることができて、宇宙の構造とかを割り出すこともできるんだよ。」

ということも話せると、数式的な理解なんて到底無理ですが、学んでいることの価値が生徒にとって大きくなる可能性があります。そこまでいくと、救急車の音が自分を横切ることなんてどうでもいいよと思っている生徒も、ドップラー効果ってすごいんだな、と思ってくれるかもしれません。(高度な話が全員に響くわけはないです。1クラスで1人だけが関心を持つかもしれないです。だからなるべく話をする機会を増やして、最終的に全員がどこかの分野でヒットすることを目指すのです)

 

「生徒に関心を持ってもらおう、そうすれば寝なくなる」という考えが先行してしまうと、とりあえず生徒が楽しんでくれた、というところで目標を達成してしまうので、学問への関心をもつチャンスを逃してしまうこともあり得るのです。これはもったいないと思います。

学問が楽しいもので、壮大なスケールを持ち得ることを伝えるには、先生自身が楽しいと思うことを、楽しみながら話すことが一番大切で、目的が「寝ないように関心を持ってもらおう」のうちはそうはならないかな?と思うので注意が必要です。

ここまでが、そもそも論で寝るのは教員が悪いのでは?と考えてしまうことで泥沼になってしまうかも、という話です。

 

2 他の理由で寝ている生徒もいる

自分の授業の質を自分で責めてしまう先生は「寝不足で寝てしまっている」「部屋があったかすぎて眠気が襲ってきている」という生徒がいることを見逃しています。そういう生徒は授業を聞きたいと思っていても寝てしまっているのです。そして寝てしまっていた部分はわからないままになって、次回の授業では前提知識が足りずに、聞いてもわからなくなるサイクルに突入します。

こういう生徒に対して「寝るのが悪い」「早く寝ないのが悪い」と生徒の責任だとしてしまうのは、少し不親切に感じます。自分で目を覚ますアクションをするより、他の人にちょっとびっくりさせてもらったときの方が眠気が冷める、という経験はきっとあると思います。そんな刺激を先生が与えてあげるのは、必要な親切でしょう。先生側から起こさないスタイルを貫くと、脱落者は増えていく一方なのです。

 

3 寝る、という行為は伝染する

また、寝ている生徒が放置されていると、周りの生徒も寝始めます。「ちょっと疲れもたまっているし、授業受けるのしんどいな」そういうときに寝ている友達が目に入ったら、悪魔のささやきが始まります。寝ちゃっても大丈夫じゃない?あとでノート見せてもらおう。こうして寝る人は増えていきます。こうならないためにも、寝ている人は起こしたほうが絶対良いです。

 

まとめ

生徒が授業を楽しむためにも、教員が楽しんで壮大でマニアックな話をしよう。それが生徒が寝ないようになる理想のステップだ。そしてそのために、教員はたくさん勉強しよう。それでも寝てしまう生徒はいるけれど、その時は優しさを持って生徒を起こしてあげよう。

起きていることが関心を抱くチャンスにつながるし、そのチャンスは教員が作ってあげなきゃいけない。

生徒だけをみて、生徒を楽しませる近道を選ぶと、純粋に学問を楽しむ道からは遠のく可能性があることに注意しよう。そんな感じのことを思っております。